昨日(16日)は何の日だったでしょうか?

答えはELVIS PRESLEYの命日です。

でも、このことはすっかり忘れられているようです。

昨日もいくつかの音楽ブログを覘いてみましたが、まあ静かなものでした(苦笑)
比較するのもなんですが、12月8日とは悲しいくらいの差があると思います。
我が国でのELVISの扱いはこんなものなんでしょうね。
残念なことですが・・・

そんなELVISの命日に聴いていたのがこのアルバムです。


”アメリカン・ロック”を代表する大名盤、『FROM ELVIS IN MEMPHIS』です。

1969年にリリースされ、全米13位まで上昇した本作には、久しぶりのトップ10ヒット「IN THE GHETTO」(全米3位)が収録されています。

これはELVISのメッセージ・ソングです。

前年(1968年)までのELVISは映画出演を中心に活動していました。
しかし、乱発された主演映画の興行成績には陰りが出はじめ、レコードも以前のようにヒットしなくなっていました。
ELVISは音楽シーンの最先端から取り残された存在になっていたのです。

そんな状況の中で、起死回生の一発となったのがTV特番「ELVIS」(通称カムバック・スペシャル)
でした。
この驚異的な視聴率を記録したTV特番で、ELVISは復活への確かな手応えを感じました。

復活への意欲に満ちたELVISが新作のレコーディング場所に選んだのは生まれ故郷メンフィスでした。
これはRCAへの移籍以来、実に14年ぶりのことでした。
ELVISはこの新作レコーディングに(多分)人生最高のコンディションとヤル気で臨みました。

本作のサウンドはR&B、ブルース、ゴスペル、カントリーなどのルーツ音楽が中心になっています。
これにはアメリカ南部などのルーツ音楽への関心が高まっていた当時の音楽シーンの流れとも密接に関連している、というご指摘もあるかと思います。
勿論、そういった時流に乗ったという部分も少なからずあるかもしれません。
しかし、当時流行っていた南部志向の諸作と本作では、持っている意味合いが違っていると思います。
彼の音楽を熱心に聴いてきた方ならお分かりかと思いますが、R&B、ブルース、ゴスペル、カントリーなどは彼が昔から取り上げ続けてきた音楽です。
そして、それらの音楽をクロス・オーヴァーさせた先駆者は彼自身でした。
初心に戻ろうとしていた彼が幼い頃から馴れ親しんできたこれらの音楽を取り上げるのは当然のことでしょう。
本作のサウンドがこのようになったのはある意味当然の帰結かと思います。

私にとって本作はZOMBIESの『ODESSEY & ORACLE』と同じように”奇跡”を感じさせてくれるアルバムです。

本作は様々な奇跡から成り立っています。
地元の凄腕ミュージシャン達による完璧な演奏、CHIPS MOMANによる的確なプロデュース・ワーク、彼のために用意された素晴らしい楽曲の数々・・・、どれも奇跡を感じさせてくれます。
さらに何よりも奇跡的なのはELVIS一世一代の素晴らしいヴォーカルです。

ここでの彼のヴォーカルはどこまでも優しく、温かみに溢れています。
そして、自分の大好きな歌を歌えることの喜びがダイレクトに伝わってきます。
本作での深みのあるヴォーカルからは、彼が今まで通ってきた道程、軍隊生活、映画への出演、結婚、そして音楽や映画への酷評、などが全て無駄になっていなかったことがわかります。

ここには14年前の大きな野望を胸に秘めた、ギラギラした目の若き日のELVISはもういません。

しかし、昔と変わらずに好きな歌を歌い続けているELVISがここにはいます。