勿論、英国の場合はアメリカで製作された盤のように「バレなければ良いんだ!」という強引な企画は少ないです。
本場で無理な事はできません。
英国での企画盤は流行物のカバー・アルバムが圧倒的に多いです。
ただ、単にカバー・アルバムなら有名な人でもやりそうな企画です。
そのため、ここでは、
・ヒット曲を多数出しているような有名アーティスト。
・メジャーなレコード会社のメイン・レーベルから発売されているレコード。
の2点はあえて除外します。
そうなると少々怪しげなアルバムが中心になってきます。
まずは順番が逆ですが、番外編のアルバムからです。
BRIAN POOLE AND THE TREMELOESの『BIG BIG HITS’ OF 62』(1963年)です。
TREMELOESはDECCAオーディションでBEATLESを蹴落として契約をものにしたグループですが、そんな彼らの最初のアルバムは当時のヒット曲をカバーした企画盤でした。
60年代中頃までの英国では、いくら実力のあるグループでも「オリジナル」アルバムを出すのは非常に難しい状況でした。
でも、彼らはこの少し後に人気グループになるので番外編としました。
裏ジャケにはちゃんと彼らの写真も載っています。
ACE OF CLUBSはDECCA系の廉価レーベルです。
これは1963年リリースですから、ビート・ブームの最初期に出されたアルバムです。
彼らの演奏は非常に巧いですし、それにメジャー系のレーベルとあって録音状態も良好です。
企画アルバムの中では安心して聴ける一枚だと思います。
怪しい度:★
続いて、『THE MERSEY SOUND』(1964年)です。
ジャケットやレーベルにアーティストの表記はありませんが、バーミンガム出身のビート・グループTHE RENEGADESが演奏しているようです。
バーミンガム出身なのに”THE MERSEY SOUND”なんて・・・
RENEGADESは本国で全く売れませんでしたが、巡業先の北欧やオランダなどで人気が出て、当地で数枚のアルバムを残しています。
絵に描いたようなB級ビート・グループ人生ですが、外国とはいえアルバムまで残せたのですから、まずまず成功したと言えるでしょう。
ちなみに、現在それらのアルバムはCD化されています。
全く聞いたことのないレーベルです(笑)
このアルバム、ジャケットにはラミネート・コーティングが施されていますが、紙質をケチったのか悲しいくらいペラペラです。
当然ですが、背表紙には何の表記もありません。
勿論、録音状態も良いはずがありません。
彼らの演奏は曲によってバラつきがあります。
普段レパートリーに加えていると思われるカバー曲は悪くありません。
しかし、BEATLESカバーの「YOU CAN'T DO THAT」なんかは非常に自信なさげに演奏しています。
これはレコーディングの日に初めて演奏した曲なのでしょうか?
きっとリハーサルする余裕もなく演奏を強要されたのでしょうね。
そんなことを深く考えさせる一枚です。
怪しい度:★★★★
次は『BEATLEMANIA』(1964年)です。
名前のようにBEATLESのカバー曲集です。
アーティスト表記はありませんが、恐らくスタジオ・ミュージシャンを集めて録音したと思われます。
このアルバムについては
過去記事があります。
BEATLESのツアーで病欠したRINGOの代役を務めたドラマーJIMMY NICOLが参加していたようです。
TOP SIXはあまり聞かないレーベルです。
このアルバムのジャケットにラミネート・コーティングは施されておりません。
背表紙に表記もありません。
録音状態はチープでイマイチですが、スタジオ・ミュージシャンによる演奏はまずまず安定しています。
でも、どうしようもないくらいチープなジャケット・デザインは怪しさを増幅させていると思います。
怪しい度:★★★★
同じく、THE MERSEYBOYSによるBEATLESのカバー曲集『15 GREAT SONGS COMPOSED BY JOHN, PAUL & GEORGE』(1964年)です。
DECCA傘下の廉価レーベルACE OF CLUBSからリリースされた本作ですが、いろんな意味でグレーな作品です。
この裏ジャケなんかダメでしょう(笑)
ちなみにクレジットにあるMERSEYBOYSというのは変名で、こちらも実際に演奏しているのはバーミンガムのビート・グループのはずです。
本当のグループ名を思い出せないのですが、いずれにせよ全然”MERSEYBOYS”ではありません(苦笑)
このアルバムはDECCA系からのリリースということで、上記2枚よりは間違いなくまともな環境で録音されたはずですが、へろへろな演奏が全てを帳消しにしています。
BEATLESと契約できなかった(しなかった)DECCAの怨念がこもった一枚です。
怪しい度:★★★★
補足ですが、このアルバムにはUS盤も存在します。
US盤を発売しているは、こちらもBEATLESと因縁深いVEE JAYです。
続いて、いつもお世話になっている音楽ブログ『
analog Beat』でも取り上げられていた『GROUP 64』(1964年)です。
私が所有しているのはWORLD RECORD CLUBのステレオ盤ですが、当然のように疑似ステレオです。
アルバムの選曲は63、64年のブリティッシュ・ビートのヒット曲が中心で、結構バラエティーに富んでいます。
しかし、演奏レベルもバラエティーに富んでいます(苦笑)
このアルバムに参加しているミュージシャンは、THE JELLYBABIES、THE YOUNG ONES、THE TELSTARS、THE POSTCARDS、GROUP Xとなっていますが、私が実在を確認したのはGROUP Xのみです。
(GROUP XはFONTANAからインスト曲のシングルを2枚残しています)
THE YOUNG ONESもWORLD RECORD CLUBから出ている他の企画盤に参加しているので、実在しているのかもしれません。
他のグループはスタジオ・ミュージシャンによるデッチあげグループか、まともにレコード・デビューできなかったセミプロ・グループのどちらかだと思います。
どちらかといえば後者かな?
でも、誰がどの曲を演奏しているのかは表記が無いので全く分かりません(苦笑)
怪しい度:★★★
カバー曲集ではありませんが、次は怪しいビート・グループ(?)の連作です。
BILLY PEPPER AND THE PEPPERPOTSの『MORE MERSEYMANIA』(1964年)と、
『MERSEYMANIA』(1964年)です。
どちらも米PICKWICK傘下のALLEGRO(またはHURRAH)からリリースされています。
米PICKWICKは数々の怪しげなレコードを発売していることで知られている会社です。
私はずっと『MERSEYMANIA』→『MORE MERSEYMANIA』の順に発売されたものだと思っていましたが、レコード番号順だと『MORE MERSEYMANIA』→『MERSEYMANIA』になります。
まあ、どちらでも良いのですが・・・
これらのアルバムにはBEATLESのカバー曲の他にオリジナル曲も含まれています。
オリジナル曲の大半は英国人作曲家のBILL SHEPHERDが手掛けています。
あくまでも想像ですが、BILLY PEPPER AND THE PEPPERPOTSなるグループは実在していないと思います。
アメリカでのマージ―・ビート旋風に便乗しようと考えた米PICKWICKが、英国人作曲家BILL SHEPHERDに依頼をしてマージ―・ビートっぽい曲を作ってもらいスタジオ・ミュージシャンに演奏させたのが本作だと思います。
録音がどこで行われたのかは不明ですが、何となく英国録音のような気がします。
この件について詳しい方がおられたら教えて下さい。
『MERSEYMANIA』は米PICKWICK系のレーベルから別タイトルのアメリカ盤も出ています。
とはいえ、私はアメリカ盤を持っていないので、詳しくはこれまたいつもお世話になっている
『analog Beat』の記事をどうぞ!
ちなみに『MORE MERSEYMANIA』は、ラミネート・コーティング有りのジャケット、背表紙には表記がありません。
『MERSEYMANIA』の方はジャケットのラミネート・コーティングは施されておらず、背表紙の表記も無し、それにレーベルは通常よりも一回り小さい省エネ・ラベルです。超マイナーなHURRAHレーベルということを加味すると、怪しいレコードの条件全てを揃えています(笑)
BEATLESファンが絶叫している写真をジャケットにするセンスも最低です(笑)
その反面、『MORE MERSEYMANIA』のジャケットはちょっとだけカッコよく感じてしまいます(苦笑)
どちらのアルバムも録音は非常にチープですが、演奏自体は悪くありません。
オリジナル曲の中には意外とカッコいいものもあります。
『MORE MERSEYMANIA』 怪しい度:★★★★
『MERSEYMANIA』 怪しい度:★★★★★
DENNY SEYTON AND THE SABRESは上の2枚と違って実在するビート・グループです。
英PHILIPS傘下の廉価レーベルWINGから発売された『IT'S THE GEAR (14 HITS)』(1964年)は、ヒット曲のカバーを収録した企画アルバムです。
ジャケットに本人達が写っていないのは気の毒ですが・・・
このアルバムについては
過去記事があります。
詳しくはそちらをご覧ください。
私が持っている盤のジャケットにラミネート・コーティングは施されておりません。
しかし、ラミネート・コーティングが施されているジャケットもあるようです。
このアルバムはメジャー系の廉価レーベルから出ていることもあって、わりと安心して聴ける一枚です。
怪しい度:★★
『IT'S THE GEAR (14 HITS)』の評判に気を良くしたのか(?)、WINGからは続編が出ています。
IAN AND THE ZODIACSの『GEAR AGAIN - 12 HITS』(1965年)です。
このアルバムについても
過去記事があります。
このアルバムにもジャケットにラミネート・コーティングが施されている物と無い物が存在するようです。
IAN AND THE ZODIACSは本国で売れませんでしたが、巡業先のドイツでは人気のあった実力派マージ―・ビート・グループです。
彼らはドイツで3枚のアルバムを残し、BEAT-CLUBなどのテレビ番組にも出演しています。
アメリカでも米PHILIPSからアルバムを1枚出しています。
そんな彼らも本国では企画アルバム要員・・・
それでもアルバムに名前を残せただけ良かったのかな。
ただ、さすがに歌や演奏はしっかりしています。
怪しい度:★★
IAN AND THE ZODIACSは英PHILIPS系から、もう一枚企画アルバムを出しています。
『THE BEATLES BEST DONE BY THE KOPPYKATS』(1967年?)です。
今度はBEATLESカバー曲集で、なんと怒涛の2枚組です。
しかし、どういうわけか名義はTHE KOPPYKATSという変名になっています。
FONTANA SPECIALは英PHILIPSの廉価レーベルで、ちゃんとしたステレオ盤です。
見開きのジャケットにはラミネート・コーティングが施されています。
歌や演奏は安定していますし、録音状態も良好です。
どうしようもないジャケット・デザインを除けば怪しい度は低いです。
怪しい度:★★
最後はROLLING STONESのカバー曲集です。
THE PUPILSの『A TRIBUTE TO THE ROLLING STONES』(1966年)です。
これも廉価レーベルWINGから発売されています。
ジャケットにラミネート・コーティングは施されておりません。
これはかなり知られたアルバムだと思います。
ご存知の方も多いかもしれませんが、THE PUPILSはモッズ・グループTHE EYESの変名です。
今まで紹介した企画アルバムは物好きな方以外お勧めできる内容ではありませんが、このアルバムはブリティッシュ・ビート好きの方なら聴く価値があります。
この手の企画盤にしては珍しく再発されているので、今でも容易に入手可能です。
このアルバムは非常に短期間で制作されたようで、録音状態は悪いです。
しかし、ワイルドな演奏は本家よりもカッコいいです。
モッズ~ガレージ・ビート好きには必聴盤です。
怪しい度:★★
これで怪しい企画盤の英国編は終わりです。
本当は2、3回に分けて、それぞれのアルバムを掘り下げるべきでしたが、面倒なので1つの記事にまとめました。
この記事のアルバムで要望があれば単独の記事したいと思います。
そんな要望は無いでしょうけどね(笑)
米国編はそのうちやります。